『千と千尋の神隠し』には不思議なキャラクターが多く登場します。
今回はその中でも、「坊」にスポットを当ててみたいと思います。
坊というキャラクターは私たちに何を伝えているのでしょうか?
目次
坊への違和感
湯婆婆の息子である
坊は湯婆婆の息子という設定です。
しかし、母と子というには、年が離れ過ぎている容姿をしていますよね。
坊自身も湯婆婆のことを「ばあば」と呼んでいますし、
違和感を覚えた人もいるのではないでしょうか。
よっぽど高齢出産をしたのかもしれませんが、
それだと、作品での“意図”が読めません。
ただ「不思議だね?」で話は終わってしまいます。
年齢は見た目通りではない
となると、坊の年齢は見た目通りの赤ん坊ではないことになります。
また、体も普通の人間と比べるとかなり大きいです。
母親の湯婆婆も頭身はおかしいですが…
発達段階として坊のプロフィールをまとめると次のようになります
- 見た目の年齢は0歳(髪がないので)
- 身体レベルは0歳(ハイハイができる)
- 言語レベルは幼児ぐらい
- 体の大きさは成人男性程度
- 実年齢は湯婆婆の息子として自然な年齢
このちぐはぐさをどう説明できるでしょうか?
なぜ坊は成長しないのか?
スタジオジブリの公式Twitterでは次のように言っています。
A:子どものまま大きくなってしまった……という象徴です。
湯婆婆は坊にお金がかかってしょうがないそうです。— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) January 7, 2022
大人でも「あの人の考え方子どもっぽいなぁ。」
と思う人って残念ながらいたりしますよね?
人間も実際の年齢と精神年齢は必ずしも同じではありません。
坊はこの二つの年齢の不一致を表現したキャラクター、と言えそうです。
ここからは、坊の境遇を考え、その原因を探ります。
成長しない原因①:おんもへ行かない
坊は、湯婆婆から、
「おんも(家の外)に行くと病気になる。」
と教えられています。
外の世界にふれる機会のなかった坊は、自分の成長する機会を失い、
何もしなくても良い環境で育ったため、
成長がなかったのではないかと考えられます。
成長しない原因②:部屋のぬいぐるみ
坊の部屋には、ぬいぐるみが沢山置いてあります。
湯婆婆が、坊の欲しがるままに与えたのでしょう。
坊からしたら、上手くいかないことは何もない。
喋るのにも、湯婆婆に甘えるための言葉しかいりません。
こうした原因が映画からは読み取れそうです。
坊と千尋の親子関係
親子関係について、象徴的なシーンが3つあります。
坊が銭婆に「ばあば?」と聞く
ただ、双子で似ていることが言いたいなら、
千尋に「湯婆婆?」と言わせると思います。
坊に言わせることで、上っ面だけの親子関係を描いています。
湯婆婆はネズミになった坊が分からない
こちらの方が驚きますよね。
あんなに坊を溺愛していたのに姿が変わっただけで見抜けないのです。
千尋は最後に豚の中に両親がいないと見抜く
そして、2つの親子を見抜けない描写の後、
最後に千尋に同じ問題が課されます。
千尋は、無事に両親がいないことを見抜くのですが、
千尋と坊の違いは何なのでしょうか?
先ほど、坊が成長しない原因は、
坊の行動と環境にあると考えましたが、
本質的には親子関係の希薄さにあるのではないかと思います。
坊が私たちに教えてくれること
坊は、最後の場面で、自分で立つことができるようになります。
外の世界にふれ
自分の意志でやりたいと思ったことをする
その中で、文字通り「自立」したのでしょう。
千と千尋の神隠しのキャッチコピーに『生きる力を呼び醒ませ!』があります。
千尋について言っているのだと思いますが、
千尋と同じく、親元を一時離れ、自分の力で進み始めた坊もまた、
生きる力が呼び醒まされていったのではないでしょうか。
親が子どもの道にレールを敷き、その上を歩く
「親の愛情」=「子どもに楽をさせる」
こうした親子の在り方に、メスを入れられています。